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【仮想通貨マーケット特集】4章 流動性とマーケットインパクト

これまでの仮想通貨マーケット特集では、取引板やトレードの執行などマーケット機能の基本について解説してきました。こうした機能はマーケットの必須条件ですが、十分条件というわけではありません。良いマーケットには「流動性」が必要です。今回のマーケット特集では、流動性を定義し、価格への影響力について解説し、これまでの流動性のトレンドはどうだったか振り返ります。

流動性とマーケットインパクト

流動性(Liquidity)とは、ある資産のマーケット価値への交換可能性を測る尺度です。ある資産がマーケット価格で他の資産にすぐに交換できる場合は流動的と言えます。対照的にマーケット価格ですぐに交換できない資産は流動性が低いと考えられます。

流動性は、とりわけ仮想通貨を扱う金融市場で特別な重要性を持ちます。仮想通貨のようにボラティリティの高い業界では、トレーダーが頻繁にマーケットに出入りします。それゆえ、クラーケンのような取引所では、トレーダーが注文を出す際には、自分が出した注文が希望する価格と限られた取引執行リスクですぐに執行されることに自信がある、というのが重要です。

次にメーカーとテイカーという概念について説明しましょう。既に存在している注文とマッチするビッドやアスクを出すトレーダーは、マーケットのテイカー、つまり取引所から流動性を取る(テイクする)者として行動します。対照的に、すぐに執行されない注文を取引板に出すトレーダーは、流動性を供給しており、マーケットメイカーと呼ばれます。

※クラーケンのトレード手数料はメイカーとテイカーの間で異なります。メイカーは、他のトレーダーに流動性を供給してくれるため、一般的に手数料が安くなります。この点については、次回以降で詳しく取り上げます。

表1:異なる資産に対する流動性

マーケットインパクト

流動性と価格の関係は、一般的にはマーケットインパクト(market impact)と呼ばれています。マーケットインパクトは、現在の取引板の状況を受けて1つの注文(もしくは複数の注文グループ)が資産のマーケット価格にどのような影響を及ぼすかを測ります。流動性の高い取引板の場合は、ディープマーケットと呼ばれ、ほとんど影響がありません。一方、流動性の低い取引板はシンマーケットと呼ばれ、大きな影響を及ぼすことになります。シンマーケットの場合、同じ時間に執行されたトレードの間で価格に大きな差が出ることになります。

マーケットインパクトという概念は、取引スピードと価格という2つのトレードの関係を反映しています。先述の通り、流動性は資産がすぐにマーケット価格で交換できるかを測る尺度と定義しました。マーケットインパクトとは、すぐに執行できる注文を出した時、どのように資産のマーケット価格が変わるかについて注目することになります。

※マーケットの注文は、注文のサイズが取引板の全ての注文を合わせた取引量を上回れば執行されないかもしれませんが、それは稀な出来事です。

一般的には、大量の資産をかなりのスピードで交換することを目指すトレーダーは、ある時点におけるマーケットの流動性に大きな影響を受けることになります。一方、時間にゆとりのある小規模なトレーダーは同じような影響を受けないかもしれません。

それでは、流動性はどのように測るのでしょうか?

一般的には、以下の方法によって流動性を測ることができます。

  • 一定期間における特定の資産のビッドとアスクの取引量
  • スリッページの予想量

いくつかの例を見てみましょう。

ビットコインー米ドル(BTC-USD)の流動性ー価格レンジ

価格レンジを使って、ある時点における流動性を測ることができます。

表2:クラーケン ビットコインー米ドル(BTC-USD)の取引板

表2を参照すると、クラーケンのベストビッドとべすとアスク価格の平均であるBTC-USD中間価格から5ドル以内のビッドとアスクの流動性水準を計算することができます。

中間価格=AVERAGE(ベストビッド, ベストアスク)=AVERAGE(8871.0,8873.1)=8872.1ドル

価格レンジ=8872.1ドル± 5ドル=8867.1ドル〜8877.1ドル

価格レンジ内で、我々は次のような流動性指標を見つました。

  • ビッド(青いボックス)の合計は[3.1+0.275+0.1+1.984+0.1+0.1+0.75+3.382+3.386]13.18 ビットコインで、1ビットコインあたりの価格レンジは8867.3ドル〜8871.0ドル
  • アスク(赤いボックス)の合計は [2.752+1.984+0.1+7.632+0.124+0.174] 12.77ビットコインで、1ビットコインあたりの価格レンジは8873.1ドル〜8876.2ドル。
  • 中間価格(ビッドの流動性+アスクの流動性)の5ドル以内にある流動性は合計で25.94ビットコイン

このビットコインー米ドル(BTC-USD)の取引板は、8867.3ドルと8876.2ドルの間で25ドル以上を吸収できるほど十分な買い手と売り手が参加していることになります。

スリッページ予想

さて、あなたはトレードを開始して一回で最大150ビットコインの買いもしくは売り(もしくは両方)の取引を検討しているとしましょう。先述の例では、与えられた価格レンジを使って決められたレンジ内のビットコインの流動性の水準を推測しました。私たちは中間価格から5ドルのレンジに価格リスクを抑えるトレードの規模は何かを推定しました。次の例では、トレードの量を価格リスクを推測するインプットとして使います。

表3:クラーケン ビットコインー米ドル(BTC-USD)の取引板(5ドルのグルーピング)

表3を参照しながら、我々の仮説である150ビットコインの注文に対応するビッドとアスクの流動性がどれくらいあるのか計算してみましょう。

中間価格=AVERAGE(8875.0,8875.0)=8875.0ドル

累積の取引量が150ビットコインを超える注文に対応するためには、我々は以下のような流動性の基準が必要だと考察しています。

  • ビッド(青いボックス)では、最低価格が8835ドルで潜在的なスリッページが40ドル(中間価格−最も低いビッド価格)あることを示しています。
  • アスク(赤いボックス)最高価格は8915ドルで、潜在的なスリッページが40ドル(最も高いアスク価格−中間価格)あることを示しています。

150ビットコインの売り買いをする場合、トレーダーは最大で40ドル、もしくは中間価格の0.45%のスリッページに直面することになります。

流動性の進化

流動性とマーケットインパクトは未来永劫変わらないというわけではありません。取引板は絶えず変化します。以下では、クラーケン最大の流動性を誇るビットコイン/ユーロ(BTC/EUR)とビットコイン/米ドル(BTC/USD)の取引板において、平均流動性(ビッド側の平均流動性+アスク側の平均流動性)がどのように推移したか解説します。とりわけ、我々はそれぞれのマーケットについて、異なるレンジ(± 0.25% / ± 0.50% / ± 1.00%)における中間価格で平均流動性を測りました。

まず、表4にあるBTC/EURを見ると、流動性はマーケット全体の動きと連動していることが観察できます。

2018年末までにビットコイン価格が上昇する中、100bps(ベーシスポイント)内での平均流動性は100万ユーロから400万ユーロに増えました。その後、ビットコイン価格は下落し、2018年末までには300万ユーロ後半で推移していました。2019年初頭に再び流動性がビットコイン価格の下落と同じ動きをしました。その後、2019年にビットコイン価格が回復するに従って平均流動性は400万ユーロを超えました。それ以降、平均流動性は300万〜400万ユーロのレンジで推移しています。

表4:クラーケン BTC/EURの平均流動性 対 平均中間ポイント

次に、クラーケンのビットコインー米ドル(BTC-USD)市場を見てください。

上記と同じ期間で中間価格から100bps以内の平均的な流動性は、100万ドルから300万ドルから増加し、ビットコイン価格下落とともに減少しました。2019年6月にビットコイン価格上昇とともに平均流動性が550万ドルを突破し、2019年末まで概ね300万ドル〜500万ドルのレンジないで動きました。2つの表は、マーケットの乱高下にもかかわらず、クラーケンの取引板はBTC/EURとBTC/USDの双方で高い流動性を示したことになります。

表5:クラーケン BTC/USD平均流動性の推移 VS 平均中間価格

流動性は毎日変化します。トレーダーが継続して市場環境と必要な流動性について精査していくことが重要になります。

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